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続きは、球場で。

続きは、球場で。

F41【結】

F41



     結

 アマチュア向けの野球場にしては立派な設備が整っている、この街の北エリアの中心に位置する運動公園で、中学生の野球リーグの決勝戦が行なわれている。

 里中夫妻の娘、優海[ゆみ]は今年で卒業してしまう憧れの先輩のイニシャルを自分で刺繍したタオルを携えて、躍動する選手たちを見つめている。
 そこから少し離れて真理とその息子、そして真理に何度もプロポーズしてははぐらかされているギタリストがいる。

 ギタリストの弟が先攻チームのキャプテンでありエースであって、応援のために真理を誘ってやって来たのだ。真理の息子が─血は争えないといったところか─野球が好きで、真理を射止めるために息子を手なずけようという下心もあってのことだった。

 ギタリストは己の弟の才能を自慢し、プロ野球選手にでもなったら楽させてもらうつもりだと言う。
 真理はそんな年若いギタリストに、愛した男に寄生していた醜い男たちの姿を重ね合わせてうんざりした。

 中学生選手、特に3年生にとっては、野球の名門高校から声がかかるかどうかの瀬戸際だ。
 ギャラリーのやりとりになど気づく筈もなく、自然とプレーに力が入る。

 6回が終わる頃、一台のRV車が駐車場に滑り込んで来た。
 誰もが試合に夢中になっていて、気に留める者はなかったが、決勝戦を闘っている後攻チームのコーチに、来季から就任する予定の男だった。

 男はそのチームの監督に挨拶しようと歩み寄りかけ、凍りついたように立ち止まる。
 求めてやまない女性が、そして随分大きくなった我が子が、そこにいたからだ。

 その名を呼べば、彼女は振り向いて目を見開く。
 傍らにいた若い男が間に割って入り、男に容赦ない罵声を浴びせかける。
 その時──

「危ない!」

 鋭いホイッスルの音よりも速く、ライナー性のファウルボールが幼い少年めがけ一直線に向かって来た。
 少年を庇い、自らの背中を楯にして守ることが出来たのは、元プロ野球選手の身体能力を有する父親の方だった。
 若きギタリストは、自分の顔を庇うだけで精一杯だった。

 真理の心は決まった──

 プロテクターも何もつけていないところに時速100キロを超えるスピードで硬球が直撃しては、いくら鍛えられた肉体と言えども呼吸困難のひとつぐらいは起こす。
 初めて会う息子を抱えたまま脂汗を流す“夫”の背中をそっと撫でさすりながら、真理は悠司に、ふたりで闘って行こうね、と囁いた。

 その瞬間、ふたつのヘマタイトの守り石が共鳴して澄んだ音色を奏でたことに気づいたのは、F41ビルの20階で眠る三景の箱庭水晶だけだった。



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